社長が仕事中にケガ。 労災保険は、利きません。
番組制作会社の社長さんは、ご自身も現役プロデューサーやディレクターとして活躍されている方が多く、「先週はロケで地方に行っていました」・・・なんていうお話もよく聞きます。
社長と言えど、他のスタッフと同じように動き回るため、業務中にケガする可能性も高いのではないでしょうか。
ところが(ご存じのとおり?)社長は仕事中にケガをしても、原則として労災保険は利きません。労災保険は労働者を守るものなので、社長や専務取締役などの役員は対象とならないのです。
では社長が業務中にケガをしたら、どの保険が使えるのでしょう?
「健康保険証を出して治療を受ければいいんでしょ?」と思っている方も多いでしょう。いえいえ、そう簡単にはいきません。
健康保険は、業務外のケガや病気が対象です。そのため、業務に関連するケガや病気には適用されません。
例外として、健康保険の被保険者数5人未満の会社で、社長も現場で従業員と同じような仕事をしている場合は、業務上のケガや病気であっても健康保険が適用されます。(平成15年7月1日通達)
ということは、5人以上の会社の場合、業務に関係するケガや病気をしても、何の保険も適用されないということになります。
国民皆年金をうたっている日本ですが、会社役員については穴がある、ということです。
大儲けしている会社の社長なら、治療費を全額負担する経済力があるかもしれません。でも多くの経営者には、そんな余裕はありません。高額な治療費は生活に大きな打撃を与えます。
それでは、今まで業務中にケガをした社長は、泣く泣く治療費を全額負担してきたのでしょうか。
労災保険からも健康保険から給付を受けらず、不服申立をした例があります。
【裁決例】 事件番号 平21健146・156
会社(5人)の取締役が、工事作業中にケガをしたため、治療に要した費用と高額療養費を健康保険に請求したが、健康保険は、この事故が業務上のものであると判断し、保険給付を支給しなかった。
この取締役は、健康保険から給付を受けられないことを不服として、審査請求、再審査請求をした。その結果、被保険者数が5人未満では無いにせよ、小規模事業所であることは明確で、一般の従業員と変わらない業務上のリスクにさらされていることから、健康保険が適用されるべきとの裁決がされた。
このように、健康保険が適用された例がありますが、あくまで裁決例であり、法律として整備されていません。
中小企業の役員なら、労災保険の特別加入という制度があります。役員も保険料を払って、労働災害に備える制度です。(加入に条件があるので注意。詳しくは厚生労働省のHPで。)
中小企業の社長の多くは、従業員と同じように現場で働いています。ぜひ早期に、必ず保険が適用される法整備をして欲しいと思います。
(社会保険労務士 平倉聡子)
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