ベテランのアシスタントディレクターは皆無!?テレビ業界の現実
以前からお付き合いさせて頂いている某番組制作会社にお邪魔しました。
あれ?顔なじみのアシスタントディレクターM君がいません。
採用窓口である同社のプロデューサーに聞いてみたところ、M君は先月辞めてしまったというのです。
25歳でテレビ業界に中途入社したM君は、アシスタントディレクターとして7年間頑張ってきました。
今年32歳になったM君は、ディレクターになれずにいたのです。
同僚のアシスタントディレクターは次々とディレクターになっていったそうです。
不器用で引っ込み思案な性格のM君は、「ディレクターになりたい!」というアピールも気概も見せることが出来ませんでした。
会社から退職を宣告されたわけではないのですが、M君の居心地は悪くなる一方で、ついにテレビ業界から身を引く決断をしたそうなのです。
40歳以上のアシスタントディレクターはほぼ皆無です。
『職業AD』と言われるベテランのアシスタントディレクターはいるとかいないとか?
番組制作会社では、アシスタントディレクターからステップアップしていくのが一般的です。
アシスタントディレクターとして定年まで在職していた方の話は聞いたことがありません。
ここで、「なぜアシスタントディレクター職の募集には年齢制限があるのか?」という理由も説明出来ます。
テレビ業界に年齢制限がある3つの理由
①アシスタントディレクターにはデッドラインがある
上記の例のように、アシスタントディレクターでいられるのは20代~ぎりぎり30代前半まで。何年経ってもディレクターになれないアシスタントディレクターは、「適正がない」と判断されてしまう現実があります。
②給与水準が合わない
会社の給与規定では、年齢で基本給が設定されていることがあります。いくら未経験者でも、20歳と30歳の基本給が同じというわけにはいかない会社もあります。
③年下の先輩がやりにくい
アシスタントディレクターの多くは20代前半です。20代後半以降の後輩に教えたり指示したりするのは気を遣います。後輩が気にしないと言っても、やりづらいのは年下の先輩です。
話しは最初に戻りますが、何年経ってもディレクターになれないアシスタントディレクターは退職するしかないのでしょうか?
ディレクター以外の道を模索
才能や適正の限界を感じて退職していくアシスタントディレクターもいる一方で、形を変えてテレビ業界に残る方もたくさんいます。
配置換え
番組制作職から会社の総務や人事などのバックオフィスにまわる方もいます。ディレクターに向かなかったという方もいますが、管理側の方がより適正があったとも言えます。
プロデューサー
ディレクターとプロデューサーでは、はっきりと業務が区別されているわけではない部分もありますが、それぞれの適性があります。ディレクターとして演出面のスキルは発揮出来ないが、プロデューサーとしての調整力はあるとか。番組制作の基本は一緒でも、向き不向きはあるものです。
30歳からのテレビ業界デビュー
アシスタントディレクターとしてのスタート年齢は制限があると説明しましたが、昨今の人手不足により対象年齢を引き上げている番組制作会社は多くなってきました。
遅いスタートでも見事に目標を達成した方もたくさんいます。
■1年でディレクターになったK君
30歳である番組制作会社に入社したK君は、31歳で番組のコーナーディレクターとして仕事を任されるようになりました。番組制作会社の知識や経験は一切なかったのですが、大卒で入社した不動産会社で営業として確かな社会人経験があったことが大きく作用しました。
■33歳でアシスタントプロデューサーに
29歳で番組制作会社のアシスタントディレクターとしてスタートしたSさんは、4年目を迎える33歳の時にアシスタントプロデューサーに転向しました。某企業で広報として勤務していたSさんは、対人能力が高く、交渉や調整力もありました。ディレクターよりもプロデューサーを目指したいと考えるようになり、方向が決まりました。
皆さん社会人としてのベースがあり、20代をふらふらと過ごしていたわけではありません。
テレビ業界でも十分に活かし、遅いスタートを補っているのです。
また、「3年でディレクターになりたい」ではなく、「1年で半年でディレクターになりたい」という意気込みがありました。
遅いスタートを自覚して、相応の覚悟を持って入ってきているのです。
《石川かおり》