派遣スタッフの雇用、どこまで守れば派遣会社は義務を果たせるのか
派遣先の業務縮小の都合で、次々と派遣契約を打ち切られ、多数の待機派遣スタッフを抱えてしまった派遣会社があるとします。
次の派遣先を探すのは派遣会社の義務ですが、新しい派遣先はなかなか見つからないのが現状。
派遣先が見つからないまま待機させれば、雇用契約が満了するまでスタッフに休業手当を支払い続けなくてはならず、会社の経営を圧迫します。
どうしても次の派遣先が見つからない場合、派遣会社はスタッフを解雇することができるのでしょうか。
次の派遣先が見つからず、やむなく解雇したスタッフから訴えられ、「解雇は無効」とされた判例があります。(アウトソーシング事件)
この事件は、「派遣会社はどこまでスタッフの雇用に力を尽くすべきなのか」を考える上で、見逃せない判例です。
派遣切りの後の、派遣会社の対応は?
この事件の被告となった派遣会社は、派遣先の都合で派遣契約を打ち切られた際、原告のスタッフに新たな派遣先を打診したものの、居住先から遠いという理由でスタッフは拒否。その後、別の派遣先を見つけることはできませんでした。
この派遣会社は他社からも派遣契約を解除されており、多数の待機スタッフを抱えていたこともあって、経営状態の悪化を恐れ、原告のスタッフを解雇しました。
そして、解雇の有効性を争った裁判で、「解雇無効」の判決がくだされました。
なぜ解雇は無効になったのか
派遣スタッフはいわゆる「登録型派遣」として、派遣会社と有期雇用契約を結んでいました。
判決では、雇用契約期間の中途での解雇については、通常の解雇より厳しく有効性が判断されるべきである、とされました。
つまり有期雇用者の契約途中での解雇については、正社員の場合よりも、より合理的な理由がないと解雇できない、ということです。
また、この派遣会社の経営状態は健全であり、余力を残しているため、解雇したのは“経営悪化の予防”でしかないことから、経営状態を理由にはできないとされました。
さらには、別の派遣先を1社打診してはいるものの、それ以降紹介をせずに派遣契約終了と同時に解雇したため、解雇を回避する努力義務を尽くしたとは言えないとされました。
これらの理由から、派遣会社は解雇について充分協議したとはいえず、「解雇は無効」とされたのです。
派遣会社のジレンマ
派遣契約を打ち切られた場合、次の派遣先を探すのは派遣会社の義務ですが、現実問題として、新しい派遣先を複数紹介するのは、かなり難しいと思います。
スタッフと派遣先、お互いの希望や条件がマッチしなければ、派遣を開始できないからです。特に不況の中、スキルや経験など、派遣先から求められる条件が高い傾向にあるため、マッチングはより難しくなっています。
また、経営状態をある程度良好に保っておくことは、派遣スタッフに確実に給与を支払うためには重要なことです。特に派遣業をメインの事業としている会社にとって、経営状態の悪化は、派遣スタッフへの給与の支払いを脅かす恐れがあり、どうしても経営状態の余力を作っておきたいのが実情ではないでしょうか。
この判例は、「派遣事業を続けていくこと」の難しさを浮き彫りにしているように思えます。
派遣の自由化が始まり、製造業の派遣が解禁になり、リーマンショックで派遣切りが相次ぎ・・・と、その時々で“派遣業のあり方”は、常に議論の対象となっています。
昨年の派遣法の改正では、派遣先企業にも、契約打ち切り時の措置を事前に決めておく義務が課されました。(詳しくは 2012年11月16日ブログ2012年10月派遣法改正で 派遣スタッフを受け入れている会社は何をすれば良いか)
これを受けて、今後、派遣切りのトラブルが無くなることを期待するしかありません。
派遣元会社はもちろん、派遣先の会社も、「派遣」を利用している以上、スタッフの雇用を守る意識を持たなくてはならないと思います。
社会保険労務士 平倉聡子
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