海外ロケに行ける?行けない?番組ADの明暗
海外をロケーションに人や街や文化などを紹介する番組は各局で放送されています。
<海外を扱う番組一例>
「アナザースカイ」(日本テレビ)
「世界の果てまでイッテQ!」(日本テレビ)
「7つの海を楽しもう!世界さまぁ~リゾート」(TBS)
「世界ふしぎ発見!」(TBS)
「世界行ってみたらホントはこんなトコだった!?」(フジテレビ)
「世界の村で発見!こんなところに日本人」(テレビ朝日)
「世界ナゼそこに?日本人~知られざる波瀾万丈伝~」(テレビ東京)
「世界ふれあい街歩き」(NHK)
こういった番組の制作スタッフならば、もちろん海外に連れて行ってもらえるでしょ?
ところが・・・そうではないのです。
番組の規模やテーマにもよりますが、ディレクター1人だけが海外に行って取材やロケをこなしてくるパターンは案外多いのです。
カメラマンでさえ日本から同行せず、現地の映像技術会社のカメラマンを手配したり、ディレクターがカメラを回すことも多々あります。
「世界行ってみたらホントはこんなトコだった!?」(フジテレビ)が面白い例ですが、ディレクターがタレント役までこなしていますよね。
カメラはディレクターが回すとして、後は現地の事情に長けているコーディネーターや通訳に案内役を頼むことが多いかと思います。
さて、こうなるとアシスタントディレクター(AD)が海外取材・ロケに連れて行ってもらえる機会は本当に少ないと想像出来ますね。
プロデューサーやアシスタントプロデューサーも国内組です。
なぜ海外番組の制作をしているのにスタッフ全員で海外に行けないのか?
ただ、そういった海外番組がある一方で、ADも海外ロケに同行が許されている番組もあります。
なぜADは海外ロケに行けないのか?
理由その1:お金がない
番組を作るには当然ながらお金がかかります。
なんとなく聞いたことはあるかと思いますが、番組制作の予算は年々減っていて、ギリギリの人員で番組を制作している現状があります。
国内で作る番組でさえカツカツの現状がある中、海外番組は「海外ロケがある」だけでもガツンとお金がかかります。
ADにも海外ロケを経験させてあげたくても出来ない理由は、「お金」によるところがかなりの大きさを占めています。
理由その2:能力不足
理由その1が大幅に解消されたら話は別ですが、能力不足のADを海外に連れていくことで足でまといになってしまいます。
なるべく時間をかけずにスムーズに海外ロケを終える為には、全員が戦力とならなくてはなりません。
ただ、ADが海外ロケに行き、失敗や経験不足を痛感するチャンスが得られない時代になってしまったことは悲劇以外の何者でもありませんが・・・。
理由その3:日本でやることが多い
海外ロケに行っているスタッフが撮影した映像素材が送られてくるのを受けるのがADやAPの仕事です。
パソコン上で送られてきた映像素材を整理して、ディレクターが編集しやすいようにしておきます。
また、現地で急に必要となった人や物を手配したり、取材許可を取ったり、突発的な物事に国内で対応出来るようにしておきます。
海外番組に携わる3人のAD
国内で作る海外番組
ADがなかなか海外ロケに同行することは出来ないというのはわかりましたが、では国内で何をしているのか?
すでにディレクターが現地に飛んだ場合は、上記の理由その3が中心となりますが、ADの仕事の重要なところは海外に飛ぶ前の準備段階です。
国内にいるうちに、徹底的なリサーチと取材で海外ロケ地の情報を収集し、撮影プランの補助をすること。
この準備段階が海外ロケの成功をほぼ決定付けることになると言っても過言ではありません。
ドキュメンタリー系の番組制作会社に勤務するADのEさん(25歳)は、このように国内にいながらにして海外番組を制作しています。
海外ロケに行きたい気持ちはもちろんあるようですが、国内でディレクターを支えている自負があるそうです。
きちんと番組クレジットにEさんの名前も載っていますし!
2年目から海外ロケに同行
バラエティ系の番組制作会社に勤務するADのUさん(24歳)は、念願の海外番組に配属されたのですが、1年間は海外ロケに同行させてもらうことが出来ませんでした。
2年目になってようやく海外ロケに同行するチャンスを得たのですが、それまでに数々のアピールを繰り返してきました。
国内で行うロケで、フットワークの軽さをアピール。
デジタルビデオカメラ(デジ)を回して、撮影スキルをアピール。
海外ネタの収集を欠かさず、企画提案でアピール。
こうなると当然、「そろそろUを連れて行くか!」となるわけです。
「海外ロケに連れて行ってもらえない」ではなく、「連れて行ってもらうにはどうするか」を考えた結果です。
海外ロケ専門のAD
最初から海外ロケに同行する幸運?を得られるADもいます。
2年のAD経験を持つDさん(25歳)は、海外バラエティ番組を中心に制作している番組制作会社へ転職。
入社1週間で、いきなりメキシコロケを経験しました。
実はDさん、海外ロケはおろか、海外に行くのは初めてでした。
だからなのか・・・現地の水にあたり、いきなり病院行きとなってしまいました。
メキシコロケ滞在中に熱も出してしまい、本人曰く「ほとんど使い物にならなかった」そうです。
最初の海外ロケで散々な目にあったものの、その後は「海外ロケのADと言ったらDさん」と言われるくらい、頼りにされる存在となりました。
なにせ、1年のうちの半分が海外ロケに出かけている状態です。
自宅のアパートの家賃がもったいないと冗談で言っていました。
海外ロケは危険もいっぱい!
海外ロケのエキスパートと言われているあるディレクターは、南米の国にロケに行き、撮影機材をゴッソリと盗難にあったことがあります。
ホテルの安全だと思われる場所に置いておいたのにもかかわらずです。
盗難だけで済んだのは不幸中の幸いと現地警察に言われたそうです。(ぞぞ)
危険な場所を必死で取材する報道番組でもなんでもありません。バラエティ番組のロケでした。
ある程度の危険は想定していたものの、海外では想像を超えることが起こるのです。
このディレクターの体験談を聞いていると、新人ADを容易に海外ロケに連れて行くことが出来ない理由もわかる気がしました。
海外ロケは番組制作者にとって、少なからずテンションの上がる仕事だと思います。
ただ、海外ロケでは全員が即戦力とならなければなりません。
何も出来ないADが“お客さん状態”になってしまってはいけないのです。
活躍することを前提に、海外ロケへの切符が得られるようです。
《石川かおり》