業績悪でも賞与満額支給、働かない社員を処分できず・・・放ったらかし「就業規則」で会社が大損も!?
会社のルールを定めた就業規則。
常時使用する従業員が10人以上の事業所には作成義務がある、ということはご存知かもしれません。
・ 気づいたら従業員数が10人になっていて、間に合わせで形だけ作った
・ 何年も前に作ったけれど、一度も見直したことがない
・ 書棚の奥に隠してある
という会社はご注意ください!
放ったらかしにしてある就業規則が原因で、会社が損をするかもしれないのです。
就業規則は会社のルールブック、のはずが・・・
就業規則の重要性をあまり理解していない会社は多いように思います。
就業規則は、理解して利用すれば、従業員とのトラブルを防ぎ会社を守る、有効なツールです。
例えば会社は、就業規則に
「定年は満65歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする」
と定めます。
当たり前のことですが、この規定がなければ65歳を超えても、従業員から辞めると言うまで会社は雇用し続けなくてはなりません。
他にも、就業規則の服務規律では
「会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと」
「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」
と、行ってはいけない行為を示すことができます。
服務規律があるからこそ、会社のルールを破った従業員は、服務規律違反で処分の対象となるのです。
このように、就業規則は言わば会社の設計書。
就業規則を邪魔者扱いする会社もあるようですが、本来は、会社の目指す姿を明確にして、会社を守るものなのです。
しかし一歩間違えば、会社が損をする“不幸の種”になりかねないのも、また事実です。
知っておきたい就業規則の効力
なぜ会社が損をする恐れがあるのでしょうか。
先にも述べたように、就業規則に定めがあれば、基本的にはその規定が会社のルールになります。
そのため
インターネットでひな形をダウンロードして作った
他社の就業規則を、社名だけ変えて自社のものにしている
というのは、大変危険です。
例えば、「賞与は業績の良い時に限り支給し、業績の悪い場合は賞与ゼロ」としている会社があったとします。
この会社の就業規則は、何年も前に他社の規則をコピーして作ったもので、賞与の規程には
「年に2回、7月と12月に基本給の1.5ヶ月分を支払う」
と書いてあります。
あるとき従業員がその事実に気付き、過去2年分の賞与を請求したら、会社は就業規則に従って賞与を満額支払わなくてはなりません。
就業規則に記載されていることで、会社には支払い義務が発生するためです。
たとえ会社が意図していない内容だったとしても、就業規則に記載があれば、それが会社のルールとなり、原則として会社も従業員もそれに従わなくてはならないのです。
こんな就業規則に注意!
実態と就業規則が合っていないこと以外にも、注意しなければならないポイントがあります。
≪従業員に見せていない就業規則≫
就業規則は、配布する、事業所に備え付けておくなど、従業員なら誰でも読めるようにしておかなくてはなりません。周知されて初めて効力を持つからです。
例えば、懲戒処分(減給、出勤停止、懲戒解雇など)も、就業規則に規程を書いただけでは効力を持ちません。
一度も従業員に見せることなく社長の引出しに仕舞い込んでいるような場合は、従業員が服務規律に違反しても、これらの罰則を適用することはできないのです。
≪何年も前に作ったきり・・・≫
就業規則に記載が無い部分に関しては、「法令=会社のルール」になります。
これが思わぬ落とし穴になります。
労働関係の法令は、頻繁に改正されます。
例えば育児休業についての規程。
育児介護休業法は平成11年に全事業主に義務化され、現在までに改正も経ています。
会社は、育児休業を取得できる期間従業員の範囲を
「入社1年以上であること」
「子が1歳に達する日後も引き続き雇用見込みであること」など
就業規則に規定を書くことで、限定することができます。
また就業規則に加えて労使協定を結ぶことで、
「入社1年未満の従業員」
「1年以内に雇用関係が終了する従業員」
「1週間の所定労働日数が2日以下の従業員」
には育児休業を与えない、と決めておくことができます。
最新の法律に対応していない就業規則だと、就労日数の少ないパート従業員も、入社したての期間雇用者も育児休業を請求することができ、会社はこれを認めなければなりません。
≪雇用形態に合った就業規則を用意していない≫
正社員用の就業規則は作っていても、パート社員用の就業規則を備えていない会社は、意外と多いようです。
パート社員用の就業規則が用意されていない場合、原則として、正社員就業規則がそのまま適用されます。
正社員にしか支給していない手当や退職金を、パート社員から請求される可能性があるのです。
以上のように、就業規則の効力と重要性を理解していれば、おのずと就業規則を放ったらかしておくことはなくなるのではないでしょうか。
何よりも、自社の規則に何が書いてあり、それが会社にどういう影響を及ぼすのかを、事業主が把握していないことが、一番怖いことです。
久しぶりに就業規則を読み直してみることをお勧めします。
社会保険労務士 平倉聡子
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